ねこま、ねうねう――ユーモアを感じる猫怪談|『世にもふしぎな化け猫騒動』感想

今井秀和/角川ソフィア文庫

古代から江戸時代までの猫にまつわる怪談・奇談を集めた一冊。
時代ごとに主流だった物語やその変遷について、現代語訳された実際の物語を踏まえて解説している。

身の毛もよだつ怖い話よりは、ユーモアやかわいらしさを感じる話が多かったかな。表紙に歌川国芳の愛嬌ある猫の絵が使われてたので、そんな雰囲気だろうとは思ってたけど。
鳥を捕まえられず「残念なり」というぼそりと呟く猫の話は、そういえば「栞と紙魚子」にあったね。何かしらの元ネタを知ったりするのは楽しい。

特に気に入った話は「猫奴牝忠義合奏」(ねこのつまちゅうぎのつれびき)。殺された主人の死体に飼い猫が乗り移り、主人の敵を討ちに出るという話で、旅立ちから仇敵との対決まで冒険譚のようで面白かった。道中の滑稽な感じとちょっとビターな結末も良い。

全身を舐めることが”癖”の娘の話は、化け猫話と一緒に並べるのは可哀想な気も…(「垢嘗め」なんて妖怪もいるけどさ)。現代にもこんな猫娘はいそうではある。性癖は人それぞれっす。

物語だけでなく、猫にまつわる歴史や古語、用語の解説も非常に丁寧で良かった。昔は猫を表す漢字が「狸」だったとか、平安時代の猫の鳴き声の表現が「ねうねう」だったとかは、古典を学んでいれば知っている知識なのかな。「ねうねう」って響きが可愛くて好き。

猫の語源は「ねこま」という説も知らなかった。「禰古万」の上を略して「コマ」、下を略して「ネコ」と呼ばれるようになったと。「猫魔」の字をあてて魔物の意味を持たせることもあったようだ。
年老いた猫は尻尾が二又に分かれて「猫又」になる、というのは江戸時代に生まれた話のようだ。猫又という言葉自体は江戸時代より前からあったが、初期の猫又は犬のような獣や大きな山猫の化け物を指す言葉で少し印象が異なる。

イエネコは弥生時代から飼われていたようだけど、平安時代より前は猫に関する記述がほとんどないらしい。平安時代に唐猫がペットとして人気になってから増えたようだが、それ以前はなぜ猫について記録を残さなかったんだろう。猫自体が怪異として見られていたようなので、恐ろしかったり汚らわしいと思われて記録しなかったのか? でも飼ってた人もいたわけだしな。謎。

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